乳腺腫瘍
犬・猫の乳腺腫瘍について
犬猫で乳腺腫瘍は非常に発生頻度の高い腫瘍であり、特に猫では80〜90%が悪性腫瘍(乳腺癌)と報告されています。
腫瘍の大きさ、組織学的グレード、外科切除範囲、転移の有無などが直接的に予後に影響するため、腫瘍学的アプローチに基づいた早期診断・適切な局所制御・全身管理が不可欠です。
発生要因と腫瘍生物学
乳腺腫瘍の完全な発生メカニズムは解明されていませんが、以下が関連するとされています。
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性ホルモンの関与
初回発情前の避妊手術により乳腺腫瘍発生率が0.5%まで低下することが知られ、発情後の避妊が遅れるほど発生率が上昇します。
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遺伝的・分子生物学的因子
HER2/neu、Ki-67、p53 などの発現が腫瘍の悪性度と関連することが報告されています。
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炎症性環境・肥満
乳腺組織の慢性炎症や肥満は、腫瘍促進に関与する可能性があります。
臨床症状と腫瘍の特徴
乳腺腫瘍は以下の特徴を持つことが多いです。
- 片側または両側の乳腺に発生
- 多発性病変(犬で特に多い)
- 固い腫瘤、結節状、潰瘍化した腫瘤
- 急速な増大
- 近位リンパ節(腋窩・鼠径)の腫脹
猫の乳腺腫瘍は腫瘍径が大きくなる速度が速く、小型でも肺・リンパ節・肝臓への転移性が高いことが特徴です。
診断の流れ
乳腺腫瘍の評価には、局所制御と全身状態の両方を把握するための精査が必要です。
① 触診・腫瘤評価
大きさ、硬度、移動性、潰瘍の有無、多発性を確認します。
② 画像診断
- 胸部レントゲン:肺転移、胸腔内リンパ節転移の評価
- 腹部超音波検査:リンパ節・肝臓など遠隔転移のチェック
- 必要に応じCT:局所浸潤度の詳細評価(胸壁浸潤の疑いなど)
③ 細胞診(FNA)
腺癌の鑑別に有用ですが、乳腺腫瘍は最終診断を病理組織学に委ねる必要があります。

④ 外科切除後の病理検査(確定診断)
- 組織型
- グレード(悪性度)
- 切除断端(マージン)
- Ki-67 など増殖指数
が治療方針と予後判断に直結します。

臨床ステージ
腫瘤の大きさや、転移の有無によってステージ分類されます。
ステージが低ければ低い程、根治への可能性が高まります。

治療
◯ 外科手術(乳腺切除術)
乳腺腫瘍における第一選択治療は外科的切除です。
腫瘍の位置や多発性を踏まえて、以下から最適な切除範囲を選択します。
- 単一乳腺切除
- 領域乳腺切除
- 片側乳腺全摘
- (両側乳腺全摘)
腫瘍径2cm以上・浸潤性の高い症例・猫では、広範囲切除(広いマージン確保)が予後改善に有効とされています。
※炎症性乳癌が疑われる場合は、非常に予後が悪く、積極的な手術は勧められません。


◯ 卵巣子宮摘出術(避妊手術)
乳腺腫瘍の発生には、性ホルモンの関与が考えられるため、手術と同時の避妊が一般的に推奨されます。
同時に致命的な卵巣子宮疾患の予防にも繋がります。(子宮蓄膿症など)
◯ 抗がん剤治療
特に猫の乳腺癌は悪性度が高く、術後に以下の抗がん剤を使用することがあります。
- ドキソルビシン
- カルボプラチン
犬では高グレードや転移例で適応となります。
抗がん剤は再発・転移の抑制を目的に行います。
◯ 放射線治療
局所浸潤が強く完全切除が困難な場合、または腫瘍の局所コントロール目的に使用されることがあります。
(ただし乳腺腫瘍に対する放射線のエビデンスは肥満細胞腫ほど確立されていません)。
予後因子
乳腺腫瘍の予後を左右する重要因子には次があります。
- 腫瘍の大きさ
- 組織学的グレード
- リンパ節転移の有無
- 肺など遠隔転移の有無
- 切除断端が陰性(完全切除)かどうか
- Ki-67・核分裂像などの増殖指標
特に猫は腫瘍径 >3cm で明らかに予後不良となるため、早期外科介入が重要です。
飼い主さまへ
乳腺のしこりは小さく見えても悪性度が高い場合があるため、「様子を見る」よりも早めの画像検査・手術計画の立案が最も効果的な治療になります。
多摩大塚どうぶつ病院では、腫瘍科診療経験に基づき、局所治療(外科)+全身治療(抗がん剤・画像診断)を組み合わせた最適な治療プランを提案いたします。
しこりに気づいた段階で、いつでもご相談ください。